長女第一話『ラブコメ』

「はい、これで可決。おっけ?おっけ?おっけー?!」
 あっけにとられた一同を見回しながら、勢い良く賛同を求める。求めるというか、強制。
「い、いや、その、ちょっと待ちません?」
「それじゃー代替意見出してみ、いますぐ。3、2、1、きゅー!」
「いやきゅーって言われても」
 どうにもこうこいつらは煮え切らないわけ?!あたしはさっさと帰りたいんだっ、とっとと終わらせたいのっ!
「そう急ぐこともないでしょう。もう少し討論……あ、いや、そ、そうですね、みんなすぐに意見が出るわけじゃありませんし、次回までに意見を用意してくる、ということで、きょ、今日はこれで。か、解散」
 あたしの言外の脅迫に、顧問の先生が何とかその場を仕切る。…そんなどもるほど怖い顔したつもりはないんだけどなー。まぁいいや、終わらせてくれる分には文句はないし。
 どーもこういうのは好きじゃないなぁ。そもそも、帰宅部のつもりだったあたしを無理やり運動部のマネージャーになんてしたのは誰だったか。…誰だっけ。忘れちゃった。
 …なんだか釈然としないけど、まぁそんなこと言っても多分始らない。とっとと帰ろう。
 家は大して学校から離れてないから、走ればそれこそ数分でつく。けど、まぁ一人だけ同じ方面の友人がいるので、仕方なくいっしょにてくてく歩く。
「相変わらずファザコンやってるんだ?」
ファザコンゆーな、ファザコン!それ人聞き悪いって」
「違うの?」
ファザコンはいわゆるファーザー・コンプレックスでしょ。別にコンプレックスじゃなくて好きなだけだもん」
「……あのね、世間一般的にはね、そういうのをファザコンって言うのよ」
 何かニュアンスが違うんだけどなぁ。そんな感じじゃないんだけど、まぁいいや。
 おとーさんまた店で煙草吸ってないかなー。しーちゃんお留守番ちゃんとできてるかなー。心配事の種は尽きないわけで。
 分岐で友人と別れ、人影を気にしながら早歩きから、いつのまにか小走りになり、結局全力疾走、あっという間に到着。…凄いペース…。今度学校からのタイム計ろうかな。
 ドアの前でふっ、と呼吸を整える。そして、
『からんからーん』
 ドアを勢い良く開けて、大きくこの音をたたせるのが最近の趣味。…まぁ、帰って来た事に気付いて欲しいというのが本当の理由なんだけど。
 そして迎えてくれる、いつもの雰囲気、いつもの顔。
「ただいまー」
「おぅ、おかえり」


 …自分がどう言う立場にいるかってことぐらい、あたしだってわかってる。
 おかーさんの代わりがあたしじゃ無理だってことだって、わかってる。
 それでもやっぱり、できれば同じ目線で話をしたい…って思うのはいけないことなのかな。生活面じゃ、結構おとーさんの役にたてるようになれた自信はある。でも、出来れば精神面でも…ね。
 あたしや、下の子たちにはおとーさんがいる。でも、おとーさんには…、支えになってくる人、誰かいるんだろうか。そう思うと、やっぱりこう、「はいはーい!」って挙手と共に立候補したいわけでありまして。
 …と、格好つけてはみたものの、本音はと言うと。
「だって楽しいんだもん」
 あのおとーさんは、無愛想なわりにからかい甲斐があってかわいい。必死になって抵抗したりするから余計その気になっちゃうんだけど、多分おとーさんは気付いてないんだろーなー。その辺はなぜかうちの長男坊がかなり引き継いじゃってるみたいで、二人セットにして遊ぶと楽しいことこの上ない。
「ちょっと太ったかな…気をつけなきゃ」
 いつもの普段着に着替えてから、軽く鏡でチェック。…家の中での方が気をつけたりするあたり、あたしは現金なのかもしれない。
 廊下に出ると、すぐににぎやかな声があれ。ちゃんの部屋から聞こえてくる。…ん、あの感じからするとちゃんとあやまったんだろうな。よしよし、と。
 さっきからかってあげた誰かさんはきっと今ごろ部屋だろうし、あれ。ちゃんとしーちゃんはあそこにて…、…あれ?夜霧ちゃんはどこかな?
 さっきシャワー浴びてたと思ったけど、さすがにもう済んだだろうし。
 …おとーさんとこ?
 部屋に戻り、窓から身を乗り出す。ここからなら影だけだけどお店の様子が少しわかる。…人影、かける、2。
 ダッシュ
 何も考えずお店の前まできて、そこまで来てからぴたりと停止する。
 あたし、今何考えてた?誰が、誰に、何を?
 …頭の中が真っ白になる。
 そのタイミングで、あれ。ちゃんの部屋からにぎやかな笑い声。意味もなくどっきりして、振り返ろうとした瞬間。
「あれが疲れの原因だ」
「なるほど、ご愁傷様です」
 夜霧ちゃんじゃない。常連さんの、Y’s(仮名)さんみたいだ。
 …どっと疲れが出た。何やってるんだろあたし。
「馬鹿みたい…」
 しりもちをついた格好のまま、声に出ないように溜息。
 そうか、なるほど。きっとこれが「ファザコン」の心境なんだな。
 …………何かわかっちゃったかも。あたし覚醒。
 よし、これからはまっとうに「ファザコン」として生きよう。決めた。
 さて、方針も決まって気が楽になったことだし、おとーさんの相手はY’s(仮名)さんに任せておいて、あの子たちの相手をしてこよっかな。きっと今ごろしーちゃんお耳をぴくぴくさせてあたしを待ってるんだろーし、あれ。(仮名)ちゃん一人で抑えられるとも思えないし。
 さー、楽しくなるぞーっと。
 …んー、何か今までどおりな気もするけど。
 まぁ、いっか。