鬼ごっこ


三日月がその存在に気付いたのは、買い物を追えて帰途につくその瞬間。この外出中、もっとも主と距離が離れている時。
 
無論、追跡者があえて自らの気配をさらしたのだ。そうでなければ使い魔如きに気配を知られるわけはない。それが彼の……追跡者の矜持だ。
 
ちらり、とその使い魔と目が合う。
恐怖に竦んでいることを予想していたのだが、その目からは何の感情も見て取ることができなかった。
内心舌打ちする。
 
――思いの他、やりにくい相手かもしれない。
 
が、その予測を振り払う。
 
使い魔如き眼中にはない。あれは餌だ。標的はあくまでも、あの使い魔の主である妖猫……!
実力は、己が圧倒的に上。
その矜持を抱き、『餌』を捉える為に行動を開始する。
 
――逃げるか。賢明な判断だが、許すわけがないだろう……?
 
踵を返し、路地へと向かう使い魔。
逃亡など許さぬ。
人気の無い場所へと行くなら好都合だ。即座に捕らえてやろう。
 
――気配を拡散……目眩ましか。賢しいことを。
 
細い路地に入るなり分裂した使い魔の気配。だが、彼にはそのうちどれが『実体』であるかなど既に看破している。
始めから他の気配になど目も繰れぬ。まっすぐ使い魔の本体へと切迫する。
 
――遅い。それで逃げているつもりか。
 
逃げ切れるわけがない。必死に逃げる使い魔の後を追い、手刀を閃かせ―――
 
「おばかさん」
 
ようとして、掴まれた。
 
「な―――」
 
気付かぬはずがない。
この距離まで、気配を感じさせずにこの化物が近づいてくるなど―――!
 
「ないす、三日月」
「思ったより単純で助かりました」
 
そして、単純なトラップであったことに気付いた。
先ほどの使い魔の拡散した気配が、何を隠すためのものだったのかを。
 
「ここで月夜様に気付かれて逃げられては同じことの繰り返しですからね。ひとつ、謀らせて頂きました」
「三日月、陰険〜」
「……さっき褒めていただけませんでしたっけ」
「褒めてるんだよ」
「そうは思えないんですが」
 
目の前で繰り広げられる漫才を聞きながら。
……追跡者は、戦わずして己が負けていることを思い知った。

イマイチ……。
ちっとも鬼ごっこじゃねーし。どっちかっていうと『罠』って感じだな(汗笑