夢の行方


 獏は、夢を食べると言う。
 なら、食べられた夢はどうなるのだろう。胃に入って栄養になるのかな。
 そしたら、獏はきっと夢いっぱいな動物に違い無い。
 ……そんな幻想を打ち砕かれたのは、あろうことか動物園。
「つくづく阿呆だよな、俺」
 実物はどこまでも普通の動物で、夢も何もありはしなかった。そもそも夢を食べるって何だ。そう呟いて、彼は幼少時代の日記をダンボールに詰め込んだ。
 
「そう言えば、獏って夢を食べるって言うんだよね」
 たまのデートに動物園でも選んで見れば、そんな台詞が飛び出すのが世の不思議と言うものだ。
「ああ。どこから出てきたんだろうな、そんな話」
「怖い話だよね」
「……怖い?」
「だって、将来の夢とか食べられちゃったら嫌じゃない?」
 そんな彼女の言葉を聞いて、ああ、と納得した。なるほど、将来の夢か。それは考えなかった。
 だが、確かにそう考えると恐ろしいような気がする。どこか間抜けに見える獏に自分の将来を食われるとしたら、たまらない話だ。
 ふと、幼い頃の夢を思い出そうとして、諦めた。思い出せない。
「ね、あっち行こう?」
 彼女に手を引っ張られて歩き出しながら、ふと振り返ってみる。
 ……檻の中の獏の横腹に、何かの模様が見えたような気がした。

幼い頃の夢、ねぇ……。
……おっほっほ(?