聖戦士と狂戦士


 彼は、その残虐さと殺戮の経歴から狂戦士と呼ばれていた。
 卓越した戦技は他を寄せ付けず、彼が戦場に現れる度、その姿は反り血で真っ赤に染まった。
「誰か、あの邪悪な狂戦士に打ち勝てるものはおらんのか!?」
 王の悲鳴のような問い掛けにも、応じる者は存在しないかのように思われた。
「私が参ります」
 静まり返った王の前で名乗り上げたのは、まだ年端もいかぬ、どこかあどけなさを残した少年だった。
「おお、流石は聖戦士の名高き勇者よ! 見事あの狂戦士を討ち滅ぼして参れ!」
「御意」
 
 少年の戦技は幼さにも関わらず素晴らしく、それ故聖戦士と呼ばれ、同志の人望信頼も厚かった。
 声援と期待を背中に背負い、幼い聖戦士が邪悪な狂戦士へと戦いを挑む。
「私と戦え、狂戦士!」
「小癪な若造め、返り討ちにしてくれる!」
 戦いは激しく、十合、二十合と剣を交えども中々勝負はつかない。固唾を飲んだ両軍の見守る中、二人の命をかけた戦いは続く。
 そして長い戦いの末、若い聖戦士は狂戦士の見せた僅かな隙を見逃さず、強力な一斬の下ついにその首を討ち取ることに成功したのである。
「見よ、邪悪な狂戦士は私が討ち取った!」
 沸き上がる味方と悲鳴を上げる敵軍。
「今が好機! 祝福されし剣持て戦え同志達よ!」
 高々と首を掲げ、聖戦士が雄叫びを上げると、敵は怯え上がり、味方は奮起し剣を掲げ前進する。
 これで彼は、名実共に聖戦士の名を歴史に刻むことに成功したのだった。
 
 戦は終わらず、聖戦士の戦いも終わらない。
 時は誰の上にも平等で、若き聖戦士は卓越した戦技をさらに磨きをかけ、他の追随を一切受け付けぬまでに成長していた。髪が白い物に包まれようと、彼の強さは揺るがぬように思われた。
 だが、そこへ立ち塞がる若い戦士の姿。
「私と戦え、狂戦士!」
「小癪な若造め、返り討ちにしてくれる!」
 そして数刻後。
 狂戦士と恐れられた者の首は高々と掲げられ、名実共にした聖戦士の戦勲に戦場は沸き立っていた。

まぁそんなもんだよね、とか。