布石
何が彼女を変えたのか?
果たして彼女の目的は何だったのか?
男達の間では様々な憶測が流れるも、彼女が居ない今、真実或は事実を確認する術はない。
彼女は、金をとって男と寝る、言わば娼婦だった。それは有名な話だ。だが、やはり何故娼婦なのかを知る者は居ない。
ある者はある滅亡した国の身を持ち崩した姫君だと言い、またある者は貴族に生まれながら性の悦びに墜ちた令嬢だとも言った。
それらに共通する事項はさほど多くは無い。ただひとつ、とても娼婦とは思えね美貌と高貴さを持っていたと言うことだ。
娼婦が高貴さなど、と笑う者も居るかもしれない。この寂れた街では、彼女を買うのに必要な金もさほど上がりはしなかった。
だが、彼女と寝た男はみな口を揃えてこう言うのだ。
「鼻持ちならぬ高飛車な女だ」
と。なのに、またはした金を貯めては彼女を買うのだ。
だが、ある時彼女は変わってしまった。突然男に媚び入る卑屈な女に成り下がったのだ。
男達はその変貌に驚愕しつつも、それでも彼女を買うのをやめはしなかった。いや、それどころでは無い。一度買い、気に入らぬと遠退いた男達までもがその変貌を確かめに訪れた。
いつも男達を馬鹿にしていた端正な顔が、口が瞳が身体が、無意味に寵愛と許しを請うてすがりつく。その姿に、かつての常連も新たに常連になった者も、多大な嗜虐心を刺激されずには居られなかった。
そして、彼女は突然姿を消す。多くの謎を残したまま。貴族に見初められたとか、或いは病に伏せたのだとか、やはり憶測は飛び交うが真実は闇の中だった。
そんな彼女が過ごした町の一角に、ひとつの安酒場がある。彼女について詳しいと言うそこのバーテンに尋ねてみたところ、
「彼女は、布石ってものがわかっていた。ただそれだけさ」
そんな言葉を返してきた後、瞑目し薄い苦笑いを浮かべた。
彼の背後の酒棚には、空になっている彼女が入れたボトルだけが記念に置いてある。
微妙に放置してた。
何が言いたいんでしょうねぇ?
これでSSストック切れ。またネタ仕込まなきゃw