押し花


 どうにも、押し花というのが好きになれない。
 昔、母親が好んで栞にしていたのを覚えている。次第にそれは見なくなったが、あれを見る度、言いようの無い悪寒に捕われたものだ。
 それは自分の名前に花の文字が入っていたらかもしれないし、父親がよく言っていた「女性は花のようなものだ」と言う言葉にも関係があるのかもしれない。
 そんな話をしてくれた父とも、もう大分会っていない。両親が離婚した為だ。
 理由はまだ幼かった彼女の知るところではないが、父の女癖の悪さにあったようにも思える。
 だが、冬の乾燥した空の下、押し花の存在すら忘れた頃に、父と再開した。
「綺麗になったな。本当に花のようだ」
 そう言う父は老いたな。そうは思ったが口はしなかった。
「思い出って言うのは色褪せないが、現実はそうもいかないな」
 父が遠い目を向けた先、その顔に彼女は悟った。この人は、母に会って来たのだ。当然だが母も同じように老いている。そこに何かを感じたのだろう。
「そうだ、父さんの家に寄っていかないか? ここからそれほど遠くは無い」
 気障ではあっても、多少女好きではあっても、優しい父だった。だから、少し昔話をするつもりで立ち寄った父の家。
 だが、父は後ろ手にがちゃりと重い錠をおろすと、
「さぁ、はじめようか」
 底冷えのする瞳でそう言ったのだ。
 怯えた声で何をするのかと問うと、静かに父は答えた。
「押し花にするんだよ。お母さんのように、萎れてしまう前にね」

怖くない? 怖くない?
うー(ぁ